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文学関係

庄野潤三

「私小説名作編」のアンソロジーを読んで気になった庄野潤三「静物」を読むために図書館へ行き現代日本文学大系88(筑摩書房)を借りる。田中小実昌のエッセイ集も二冊借りる。「静物」を読み、村上春樹の解説を読んで納得する。 「第三の新人」として庄野…

私小説名作選(下)

私は本来、普遍性というものは、個の体験という錨を深く垂らすことで、その錨が地底についたとき、個の独自性というものが普遍性というものに転化すると思っている。 サワダオサム「わが上林暁―上林暁との対話」より <下巻> 藤枝静男 「私々小説」 家族(…

私小説名作選(上)

中村光夫編「私小説名作選」(上下巻、講談社文芸文庫)を読んだ。 せっかくなので感想を記したいが、「名作選」との言葉通りいずれも文壇の大家による名品ばかりなので、作品の客観的な価値とは無関係に、あくまでも今の自分がどう感じたかというに過ぎない…

波の音

入院して四日目の夜、看護婦たちが用があり、私だけが父の枕元に立っている短い時間があった。父が私の顔に目を向けていた。不意に突きあがるような思いが胸に来て、私は父の頬に顔を寄せると、“父が好きだ”と言った。”好きでたまらないのだ”と言った。たま…

ブレインフォグと川端康成と女たちと

最近眠りが浅くなっているのか、朝起きてからもずっと頭がぼんやりしてスッキリしない。ブレイン・フォグBrain Fogというのはこういうことを言うのかと思ったりする。 この状態を初めて自覚したのは去年の秋ごろ、コロナのワクチンの二回目を打った後のこと…

『ツェッペリン飛行船と黙想』事件(2)

前回、暁の孫のブログに依拠して書いた、2012年5月23日の話し合いの模様が、「あかつき文学保存会」会報に会側の視点から書かれているので引用する。 「あかつき文学保存会」会報第五号に掲載された「解散の経緯」より 「上林曉の文学資料を公開し保存する会…

『ツェッペリン飛行船と黙想』事件(1)

上林暁の未発表原稿を集めた『ツェッペリン飛行船と黙想』という書物をめぐっては遺族と出版社の間で裁判になり、暁の娘の子(孫)が作成したブログにその経緯が書かれている。 過去の記事を遡って読んでみたが、時系列を整理すると以下のようになる。(敬称…

私小説はネットで発表

文芸評論家で私小説作家でもある小谷野敦氏は、『私小説のすすめ』という本の中で、これから私小説を書こうとする人はネットに書くのがいいと書いていた。つまり私小説などというものは売れないので商業出版で出してくれるようなところはないから、どうして…

Zeppelin and Meditation

サワダオサムの「独断的上林暁論」が面白かったので、「わが上林暁―上林暁との対話」も借りる。こんなに面白い本が読まれないのは勿体ない。まあ上林暁自身もうほとんど読まれない作家だから仕方ないか。太宰治好きの又吉直樹が紹介して多少知名度が上がった…

上林暁との対話

上林暁は仕事で馴染みのある人物に雰囲気が似ていて好感を持つ。安岡章太郎の顔は不快な人物を思い出させる。加納作次郎は名前がよくない。こんなことは作家当人には何の関係もないことで、不当極まりない先入観にすぎないのだが、生理的な反応なのでどうし…

A man loved by no one

風野春樹『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』という本を読んだ。とても面白い、力作評伝だった。島田清次郎は誇大妄想狂気味の自己愛性人格障害のDV常習者であり、ほとんど同情の余地がないのだが、興味深く読み進むことができたのは、筆者の精緻な調査に…

Others

昨日、「吉本隆明と小島信夫の対談は予想通りよく分からない話に終始。」と書いて終わったが、実はあのときは半分しか読んでいなかった。 今日、最後まで読んでみて、やはりよく分からなかったのだが、一か所だけ小島信夫の発言でハッとするところがあったの…

As Time Goes By

世界はすべて ひとりの太郎のためにある 世界はすべて ひとりの花子のためにある おほきな声でそれを言へばおれは殺されてしまふ けれどほんたうのことは/結局ほんたうだ 正義の発端はおれにある/人道の発端はおれにある それを知らないものをおれは信じな…

Gamble

昔「日本で最も歌唱力が過小評価されている歌手」と山下達郎が評したことでその実力が認知され、いまや誰もが「日本で一番歌のうまい歌手の一人」として認知している元・安全地帯のボーカリスト・玉置浩二と同じように、今「日本で最も過小評価されているミ…

No Tomorrow

京都の古書店で注文した「岡田睦作品集」(宮内書房)が届いた。詳細な年譜や、短期間同居するなど〈弟子〉として遇された方のインタビューが掲載されていて、充実の一冊。 年譜を見ると全集が編まれてもよいほど多くの小説やエッセイが残されている。 『乳…

Proto-Image of the People

完本 情況への発言 | 吉本 隆明 |本 | 通販 | Amazon 購読者による予約金以外の資本に頼らずほぼ独力で自分の書きたいことを書く場所を築き、いかなる組織や党派にも依りかからず、いつも完全に独りで、社会的地位や権威や社会的評価や名声の後押しを受けて…

Statement On Present Situation

図書館で吉本隆明「完本 情況への発言」、勢古浩爾「最後の吉本隆明」、松崎 之貞「「語る人」吉本隆明の一念」、加藤 典洋、高橋 源一郎「吉本隆明がぼくたちに遺したもの」を借りる。「情況への発言」では、柄谷行人や蓮実重彦、浅田彰らを口汚く罵ってい…

Marilyn Monroe No Return

「モンローが死んで、この世からやさしさが失せた。モンローが死んで、この世からぬくもりが失せた。モンローが死んで、この世からほほえみが失せ、モンローが死んで、この世はとわの闇にとざされた。だけど、かわいそうなモンロー、いつもお前の心は冷え切…

Private Requiem

川端要寿『堕ちよ!さらば―吉本隆明と私』、 橋爪大三郎『永遠の吉本隆明』、 吉本隆明『追悼私記(完全版)』、 同『フランシス子へ』、 同『開店休業』(長女ハルノ宵子との共著) を借りる。 吉本隆明が死んだのは、ちょうど10年前、2012年3月16…

後藤明生の『挟み撃ち』を図書館で借りて読んでみた。

職場のPCをWindows11にアップグレードしてからネット接続はじめ動作が重くなって仕事にならない。一日の大半をPCに心の中で悪態をつきながら過ごしている。セキュリティーとかファイヤーウォールとかの関係でチェックが入るためなのかもしれないが、あらゆる…

Black Box

第百六十六回芥川賞受賞作、砂川文次「ブラックボックス」を読み、その素晴らしさに感動。 選評を読むと、「方法の冒険がなく、小説的企みも薄く、退屈さは否めなかった」(奥泉光)とか「自然主義リアリズムの古めかしさと裏おもて」(松浦寿輝)とか「ベタ…

正宗白鳥と内村鑑三

正宗白鳥『内村鑑三』は、十代から二十代にかけて熱心に読み、その講義に通った「我はいかに基督教徒になりしか」の著者について書いた長めの随筆である。 評伝でも論文でもない、雑感を記した本で、『内村鑑三雑感』という続きもある。 いかにも白鳥らしく…

K

三木卓の私小説「K」(講談社文芸文庫)を読む。 三木卓といえば、いつのだか忘れたが、国語の教科書に文章が載っていたというかすかな記憶があり、詩人か児童文学者というイメージがあった。 この本の巻末についている年譜をみると、父親がアナーキズム系…

「ママはノースカロライナにいる」

東峰夫という作家の単行本『ママはノースカロライナにいる』(講談社、2003年)を読む。 西村賢太と坪内祐三の「ダメ人間作家コンテスト!」という対談で名前が挙がっていて、西村が彼の「ガードマン哀歌」という小説が素晴らしいと語っていたので興味を持っ…

『八木義徳・野口冨士男往復書簡集』

『八木義徳・野口冨士男往復書簡集』という本を読んだ。 図書館で借りたものだが、本当はこういう本は短期間で読み飛ばすのではなく、いつも手元に置いてじっくり読みたいものだ、などとだんだんいっぱしの文学愛好者じみたことを偉そうに書いてしまう自分に…

一私小説書き逝く

都電の線路を足ばやに横ぎり、ガード下をぬけたところでもう一度振りむいてみたが、それと気になる人物や車輛はやはりなかった。根が小心者にできてるだけ、最後に吐き残した暴言のことで連絡を受けたその店の者が追っかけてきはしまいかとヘンに気にかかっ…

こま子の夜明け前

『島崎こま子の「夜明け前」―エロス愛・狂・革命』(梅本浩志著、社会評論社、2003年)という本を読む。 こま子との愛を断った藤村は、『夜明け前』の執筆へと向かう。別れたこま子は京大社研の学生たちに連帯して革命と抵抗世界へと突き進む。野間宏の描い…

岡田睦

野口富士男『作家の手』には最晩年(82歳で亡くなる直前)のエッセイが収録されているが、文章はしっかりしていて肉体は衰弱しても意識の混濁したようなところはまったく感じない。さすが私小説家、と思う。 岡田睦という私小説の極北といわれる(一体いくつ…

平野謙と「新生」

杉野要吉『ある批評家の肖像―平野謙の〈戦中・戦後〉』は定価1万6千円(+税)、600頁を超える大著だが、大半が中山和子ほかの平野謙寄りの評論家との細かい論戦に費やされていて、実質的な中身はそれほどない。 乱暴に要旨をまとめると、平野謙は妻帯の身で…

Portrait of a critic

杉野要吉『ある批評家の肖像―平野謙の〈戦中・戦後〉』が妙に気になっている。 平野謙といえば『島崎藤村』という評論の中で『新生』を批判していたのが印象的で、読んだときは溜飲が下がる思いがしたものだが、実はその平野は戦時中に「情報局」という政府…