INSTANT KARMA

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文学関係

人の望みの喜びよ

今販売中の『文藝春秋』に掲載されている芥川賞受賞作、井戸川射子『この世の喜びよ』、佐藤厚志『荒地の家族』を読んでみた。 読んでみた、といっても、きちんと読んだわけではなく、流し読み程度なので、ちゃんとした感想は書けない。何度も読み返せば、違…

A Life of a "People's Enemy"

藤原賢吾「人民の敵 外山恒一の半生」(百万年書房、2023)を読む。 著者は西日本新聞の記者で、2020年のコロナ禍をきっかけに外山にインタビューし、連載記事を書いた。この本はそれをまとめたものらしい。 外山への確かな共感をベースにしつつも、彼のネガ…

弱度の強度

雑誌「ユリイカ」の高橋幸宏特集に収録された菊地成孔「最後のニューロティカ」をコピーするために図書館に行く。 その記事の中で言及されている香山リカ『きょうの不健康』(河出書房新社、1996)も書庫から出してもらって読む。『ジャック・ラカン伝』(エ…

エレクとリック

外山恒一の伝記は週末の愉しみにとっておくことにして、先に「フロイト技法論集」とラカン「フロイトの技法」を読むことにする。〇〇の空き時間に頭を切り替えて読まねばならぬのでなかなかキツいものがある。とりわけラカンはキツい。「丸の内サディスティ…

宇宙 日本 宇都宮

昨日に続き、千葉雅也「エレクトリック」について。 ネタバレを気にするような小説ではないが、内容に触れるので未読の方は注意。 この小説にはいくつも「仕掛け」があって、あちこちにキーワードが埋め込まれているな、という感覚はある。しかし、そういう…

Elect-trick

「新潮」最新号に掲載されている千葉雅也の新作小説「エレクトリック」を読む。 私小説が好きなので、純粋なフィクションなら嫌だなと思っていたが、ほぼ著者自身をモデルにした主人公の十代の頃を描く作品だった。 とても面白く読めた。小説として優れてい…

20230103

明け方4時前に目が覚めて目が冴えて眠れないので年末に聞き逃した菊地成孔の「大恐慌へのラジオデイズ」と神保哲生と宮台真司の「ビデオニュース・ドットコム」を横になりながらイヤホンで聞いていたら7時になっていた。菊地成孔は今年は新しいことが始ま…

Lacan pour la survie

今日も図書館でラカン関連の解説書3冊(斎藤環「生き延びるためのラカン」、荒谷大輔「ラカンの哲学」、福原泰平「ラカンをたどり直す」)を借りる。 なんでこんなにラカンにこだわっているのか自分でも分からない。分からないままで終わらせるのは癪だとい…

シビル・ラカン『ある父親―puzzle』

ラカンの娘、シビル・ラカンが書いた『ある父親―puzzle』(晶文社、1998)を読んでいるが、記述が思った以上に主観的で、ラカンを知るには殆ど役に立たない。 だがこの本から分かる事実もある。ラカンは最初の妻との間に3人の子供(長女カロリーヌ、長男チボ…

古代的ポストモダン

千葉雅也「現代思想入門」kindle版をAmazonで買って読む。 フランス現代思想について書かれた本で、今まで意味が分かった本はほとんどなかったのだが、この本で初めて腑に落ちる説明に出会えた。 文章に気負いがなく自分の中で確実に消化した知識をかみ砕い…

関直美年譜(暫定版)

1962年(昭和37年)0歳 7月7日 青森市で誕生。父・英市、母・節の長女。実家は「関ガラス店」を経営。 ひらひらの服とか着てたんですよ。しかも髪の毛が長かった。それで毎朝、お母さんとおばあちゃんがあたしの髪を三つ編みに結うの。で、「今日はどのリボ…

Perfect Days for a Jugle Cruise

…ロッキー・ブライアーは、最もつらかったのは軍隊での基礎訓練でも実戦の行軍でも、ヴェトナムでの戦場暮らしでさえもなかったと語っている。最もつらかったのは―「自分がいったいなんのために戦っているのか、それがさっぱりわからなかったことだよ。結局…

Ootani Yoshio's French Revolution

(フランス革命の標語「自由、平等、博愛」の)リベルテとは何か? 自由である。いかなる自由か? 誰もが法律の枠内で好き勝手なことをするという、万人に同一の自由である。好き勝手ができるのはいかなる時か? 百万フラン持っているときである。自由は各人…

カオルとイヅミ

稲葉 真弓「エンドレス・ワルツ」を全力のスピードで読む。 日本のシド&ナンシー?或いは只の共依存DVカップル。彼らほど有名でもドラマチックでも詩的でもないが似たような地獄或いは妄想天国に彷徨っている男女は今の日本にも数多存在する。島尾敏雄「死…

Nobody Before Me

大友良英と大谷能生の文章が読みたくて『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』を読んでいたら、通勤電車の中で阿部薫を聴いているという人がいて、真似してみたらすごくよかった。 今まで、満員電車でイアホンで聴く音楽で最高だったのはVelvet Underground…

散文世界の散漫な散策

大谷能生「 散文世界の散漫な散策 二〇世紀の批評を読む(ブレインズ叢書2)」を読んだ。 大谷能生の本はどれも非常に面白く刺激的なのだが、この本は特に啓発的だった。 この本は、渋谷HEADZ事務所で2007年9月から翌年1月まで行った講義を元に作られたもので…

Novel's novel

似鳥鶏「小説の小説」という本を図書館で手に取り、面白そうだったので借りる。 著者については全く知らない。 まえがきを読んで面白そうだと思ったので借りた。 一篇目の「立体的な藪」は面白かった。 が、残りの三篇はちょっとキツくて読むのをやめてしま…

「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」

「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」を読んでの感想の続き。 感想というよりはメモ、個人的な備忘録のようなもの。 オカンが亡くなった後、ボクはそれまで訊ねることもなく、オカンも決して口にすることのなかった話をオトンから聞くことになる。 …

Tokyo Tower ~My Mom and ME, sometimes my Dad~

リリー・フランキー「東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン」 (扶桑社)を読む。 著者の名前はもちろん知っていたし、この本がベストセラーであることも当然知っていたが、中身についてはまったく知らないで読んだ。この本のレビューにもまだ一切目を通し…

寒山拾得(備忘録)

寒山拾得(かんざんじっとく)の委しい評伝が読みたくなりネットを漁る。 寒山は、中国唐代(7世紀頃)、浙江省天台山に住んだ、修行者・禅僧であると言い伝えられ、その友人・拾得とともに、奇怪な風貌、常人離れした言動、奇瑞などにより、後世神聖化され…

吉田でGO

吉田豪の本が読みたくなり、プロレスには1ミリの興味もないのに『吉田豪の“最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』(白夜書房、2017年)を図書館で借りた。たまたま「週刊プロレス」がリサイクル本のコーナーに廃棄本として大量に積まれていたの…

ゴダール・川端・ozawa

フランス映画の巨匠、ゴダール監督が亡くなった。スイスでは合法化されている自殺ほう助の方法を取ったという。91歳で、病魔に苦しんでいたというから、やむを得ない決断だったのかもしれない。ゴダールの映画は「勝手にしやがれ」しか見たことがないので何…

事件が起きない僕の人生はどうやらまちがっている

上田晋也「経験 この10年くらいのこと」と岩井勇気「僕の人生には事件が起きない」を立て続けに読んだ。両書とも余りの面白さに圧倒された。 一昨年に、芥川賞受賞作を順番に呼んでいてウンザリしていたところに西村賢太の私小説を読んでその面白さに衝撃を…

山田順三

漫才コンビ〈髭男爵〉の山田ルイ53世こと山田順三の書いた「ヒキコモリ漂流記」という本を読んだ。「完全版」と謳われた文庫の方ではなく、2015年に出た単行本の方をkindleで買って読んだ。 一読して唸った。これは、立派な私小説ではないか。 小学生の頃は…

宮水をめぐる便り

「すばる」2018年7月号掲載の小説・二瓶哲也「宮水をめぐる便り」を読む。 その前に読んだ「ヒマラヤ杉の年輪」がなかなか面白かったので、他の作品も読みたくなった。 この小説も、三十代の男性が総合病院の清掃作業員のバイト面接の返事を待っているとい…

鳥居と麺と現金と皿と

江戸時代の農家で雨で作業のない日など、一日何もせずに過ごす生活に、スマホやネットに一日接触しないだけで世界から取り残されたように感じる現代人は耐えられないのではないか。逆に言えば、スマホやネットから生み出される人の陰性感情に昔の人は無縁で…

ヒマラヤ杉の年輪

「文學界」2020年8月号掲載の小説、二瓶哲也『ヒマラヤ杉の年輪』を読む。 岡崎祥久の「キャッシュとディッシュ」が読みたくて図書館で借りたのだが、そちらの感想は別に書くとして、こっちも意外と面白かった。 四十過ぎて病院清掃員の仕事に就いた独身男性…

Killing w/ Kindness

政治というのは建前の世界で文学は本音の世界だから両立させるのは無理があると思う。両立させるというのは、両方で一流の仕事をするという意味で、石原慎太郎や今東光は両立させたとはいえない。ウィンストン・チャーチルはどうなんだと言われたら、チャー…

Don't invite me (if U hate me)

「文藝」2021年冬季号所収の綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』を読んだ。 単行本も出たようだが、わざわざ図書館で「文藝」のバックナンバーをコピーして移動中の車中で読んだ。ちなみにぼくが本を読むのに一番集中できるのは電車の中だ。 今回はネタバレなしで…

Permission (not 2 Dance)

「文學界」2022年2月号に掲載されている小説、岡崎祥久「パーミション」を読む。 この作家の小説は未読で名前も知らなかったが、文學界の「新人小説月評」に、砂川文次「ブラックボックス」がよかった人にはお勧めと書いてあったので読んでみようと思った。 …